旅に出るための本選びは楽しい。
行く場所や交通手段、シチュエーションにあわせて、数冊の本を選ぶ。長時間の電車旅なら、駅弁とビールのお供に。現地では歩き回って疲れた足にオアシス、カフェでコーヒーと共に。夜ごはんは何を食べようか。居酒屋でご当地の美味しい物を食べつつちょいと飲み、地元のスーパーでつまみとお酒を仕入れて宿で宴会も良い。宴会用の本も、もちろん必要だ。
となると、最低3~4冊の本を持って行くことになる。結局読むのは1冊でも、旅に連れて行った本は鞄の中でくたっとなって、すこぶる手に馴染むようになっている。そうして、読んでいないのにすっかり馴染んだ本が、本棚にたくさんある。
外はまた雨だし、寒いし、旅の妄想でもしながら本を選んでみよう。選ぶにあたっての条件は以下のとおり。
・2泊3日の温泉旅行
・新幹線と在来線を乗り継いで現地まで4時間程度
・ひとり旅
ではいってみよう。
①自転車泥棒(呉明益 著)
失踪した父とともに消えた自転車。ある人生の一時期、その自転車と関わりを持った人々の物語。読んでいると旅をしているような気分になる不思議な小説である。この本は電車の中で読みたい。たまに車窓から景色を眺め、「おや、今どこを走っているのかな」と気にしつつ、まあいいかと再び読書に戻るのだ。
鏡花の作品の登場人物は、旅にでて魔境にとらわれたり、失われた何かを求めて魔境にとらわれたり、憧憬胸に秘めて魔境にとらわれたり、何かと魔境にとらわれがちで大好きだ。草迷宮、タイトルが既に「迷宮」だし、旅先の非日常にしっくりくるのでは。静かなカフェでゆっくり読みたい一冊。
③ジャンピング・ジェニイ(アントニイ・バークリー 著)
とある小説家主催のパーティで、屋上の絞首台に吊された藁人形。そして事件が―という探偵小説。ロジャー・シェリンガムのシリーズは、登場人物が探偵自身も含めてかっちゃかちゃなカオスで、話が進行すればするほど収拾がつかなくなっていき、一体この小説はどこに着地するのかと心配になるが、完全オフモードの旅先気分で読めば大らかに楽しめそう。宿でひとり宴会をしながら読みたい。
④Man’yo Luster〈万葉集〉(発行元:パイ インターナショナル)
活字が読みたくない気分の時は、写真集などあると良い。でも、旅行に大型本を持って行くのは重くてしんどい。そんな時は、美しい写真も楽しめる文庫サイズの歌集などどうだろう。寝る前の布団の中や、朝食を待つ間、ぱらぱらめくると旅心がより豊かになりそうだ。
以上、温泉旅行のための選書でした。
旅に出たい。